その子は、泣き腫らした目でお母さんを待っていた

講師紹介
今回は、吹奏楽部でフルートを担当していた中学生、Fさんの成長記録をお届けします。
今でも鮮明に覚えているレッスンがいくつもある、そんな生徒さんのひとりです。
個人が特定されないよう、一部詳細をぼかしてお伝えしています。
1. 音は綺麗なのに、誰にも「正しい練習の仕方」を教わっていなかった

「1人ではもう限界、練習しても上手くならない」と言って体験レッスンにお越しいただいたFさん。アンブッシュアが自然で、音も素直で綺麗。これまで、吹奏楽部の先輩に教わったのみで、フルートを習ったことがないとお聞きしていたので、正直驚きました。
しかし、部で渡されているという楽譜を見て、また驚きました。目的がよくわからない基礎練習の楽譜。当然、ただ『吹くだけ』の基礎練習になっており、他楽器用のものも混在しています。
この吹奏楽部のフルートパートは、先輩から音の「出し方」と運指を教わって、あとは自分で—— そういう環境なのでは、と推察しました。センスやポテンシャルはあるのに「何のために、どう練習するか」を、誰も教えてくれていなかったように感じました。聞くと、「楽譜の読み方は最低限のことだけは教えてもらえましたが、後は独学です。」とのこと。
つまり彼女は、楽譜を見て「これがドの音で、運指はこれか… こういう音が鳴るのね」「これがシャープか」などといったことを、たった1人でやってきたのです。テンポもキープできず不安定、リズムも曖昧になりがちでしたが、ある程度曲として音やリズムを並べられている現在の状況に、敬意と感嘆を隠すことができませんでした。レッスン後にお母様とお話しすると、この状況をご存知なく、『フルートを頑張っている』—— それだけが、ご両親の認識だったのです。
テンポキープやリズム問題は、当然才能の問題だけではありません。幼少期にリズムやテンポの感覚を育てる機会がなかった場合、あるいは青年期までにこれらに触れて来なかった場合、いくら真面目に練習しても、感覚が追いついてこないことがあるように私は感じます。
ピアノ経験もなかったFさんにとって、基礎的なことに加え、読譜・リズムとテンポへのアプローチがレッスンの大きなテーマになりました。
2. 譜読みから、テンポから、全部やり直した

まず取り組んだのは、「楽譜の読み方」と「練習の定義と方法」を整理・理解し、実践することでした。アンブッシュアや基礎を丁寧に確認しながら、まず楽譜の読み方を学び、練習方法とテンポキープのアプローチを一から組み立てました。少し異例ではありますが、Fさんの初期のレッスンでは、毎回メトロノームを鳴らしっぱなし、ということもよくありました。
Fさんのメトロノームは、今は廃盤になったディズニーシリーズの水色のキャラクターもの。私のは同じシリーズの赤いミッキー&ミニー。二つ並べてキャラクター話で盛り上がりながら、テンポを合わせ、彼女の中に「テンポ感」を形成し、自分でテンポを定義し、キープできるよう練習していきました。
最初はなかなか変わりませんでした。しかしここで彼女がすごかったのは、会って間もない私の「練習はすぐには効果は出ないよ、貯金と同じだからね。『おー貯まったな! 増えたな!』と実感するには時間がかかるように、『上達した!』と実感するのも、少し時間が必要ですよ。」という言葉を素直に信じてくれたことです。レッスン内容を反映させた練習を、こつこつと積み重ねてくれたのです。
このおかげで、数カ月後には上達し始め、レッスン時に「どんな練習をしたの?」とお聞きしたこともあったくらいです。お母様から「家でよく練習しています」とお聞きしたのも、ちょうどこの頃でした。半年後のFさんの実力や上達具合は、まるで別人のようになっていました。
人見知りだったFさんが、レッスン中に自分のことを話してくれるようになったのも、この時期でした。「テストが嫌だ、勉強が大変だ」としょんぼりしてみたり、お土産やお心遣いをくださったことも。これ以降レッスン後に、部活のこと、学校のこと、時には進路のことなど、Fさんやお母様と立ち話をする時間が自然と生まれるようになりました。
音楽の話は勿論、それだけではない時間が、いつの間にか当たり前になっていきました。
3. 「教えるより、練習したいのに」

レッスンを始めて1年が近づく頃、Fさんが部活で、後輩の指導を任されることになりました。「先生どうしよう、後輩を指導してって言われました。私、自分の練習がしたいのに! 教えられるほど上手くもないし、先輩がやれば良くないですか?」
その言葉を聞いて、私は「とうとう来たか」と感じました。周囲が実力を認めたのです。そしてFさんは、自分が1年前と比べて格段に成長していることに、まだ気づいていない。
「それは、周囲がFさんの成長や実力を認めている証拠だよ。教えることは、自分が十二分に理解していないとできない。アウトプットすることで、自分がより深く理解できることもある。どうしても嫌というわけじゃないなら、少し挑戦みたらどうかな?」と話すと、少しの間の後「先生が言うなら…」と、少し納得できなさそうに言いました。
この頃既に、彼女は部内で1列目に座り、パート全体に合図を出し、コンクールでのソロや、パート内で数人のみ演奏するソリなどに抜擢されていました。
4. 「本気でやっているのは、わたしだけ」

Fさんと出会って1年半程の頃でしょうか。彼女は一言二言交わしたかと思ったら、むせび泣きはじめました。言葉どころか単語すら出ず… 暫くして理由を聞くと、少しずつ話してくれました。
「先輩がふざけながら取り組んでいる。後輩も、本気でやっているように見えない。自分は練習したいのを我慢して指導して、本気でやっている。なのに音程も音もずれていて、先生に指摘されても笑っている。わたしはちゃんとできているのに——。」
泣いたら横隔膜は上がります。心拍数は上がり、呼吸も浅くなるため、結果その日は、殆ど楽器を吹けませんでした。私は、Fさんが落ち着くのを待って、難しいと理解しながらこんな言葉をかけました。
「自分がちゃんとできているのも、今泣いているのも、Fさんが本気でやっている証拠。人の粗が見えるのは、判断軸と耳ができてきた証拠。人に教えることでより理解できたから、成長できて、そう感じるのかも。」泣きながら頷く彼女に、私は続けました。
「でも—— 自分の基準を人に求めないようにしたらどうかな? その基準は人によって違うし、その人にボーダーラインを決める権利があるんだよ。」
レッスンが終わり、お母様がお見えになりました。泣き腫らしたFさんの顔を見て驚かれていましたが、隠せないので、私からもこの日のことをお伝えしました。するとお母様は、こう話してくださいました。
「家でも、勉強や練習を一生懸命やっていて、夜遅くまで頑張っているんです。心配になって聞いても、家では部活のことはあまり話してくれないので… 先生に話せたならよかった。」その言葉を聞いて、この子が抱えていたものの重さが、よりわかった気がしました。私にも少し覚えのあることだったから。
それからFさんは、少し力が抜けたように見えました。必要以上に周囲を気にせず、自分の練習に集中できるようになっていったようでした。
5. 「学校に先生を呼びたい」——その言葉の意味

このことが落ち着いてしばらく経ち、Fさんは受験とレッスンを並行して頑張られていました。ある日のレッスン後、お母さんからこんなことを教えてもらいました。「Fが『学校に由佳先生を呼びたい、パート全体の指導に来てほしい』って言ってるんですよ。照れて自分では言えないみたいですけど、部活のことを夕飯時に話してて。F、先生に話した?」
先生のことが大好きで、レッスンをすごく楽しみにしている—— そうも話してくださいました。約2年前には人見知り、約半年前はお母様に多くを語れなかったFさんは、この頃には部活のことや勉強のこと、学校であった出来事など、ご両親にたくさん話せるようになっていたのです。
レッスンを続けることを選んだFさんと共に、一緒に無理のない範囲でレッスンを続けていました。そして1月か2月、「受験直前なので一旦お休みさせてください。高校に受かったら、高校でもユキータで由佳先生のレッスンに通いたいと言っています。」というお母様からのメールをいただき、画面を見ながらしばらく動けませんでした。
音楽を教えていたのか、もしかしたらそれだけじゃなかったかもしれない—— そんなことを思いながら。
最後に
吹奏楽部でフルートを頑張っているお子様と、保護者の方へ。「練習しているのに上手くならない」には、必ず理由があります。センスがないのでも、才能がないのでもありません。
練習は、目的と段階によって必要な方法が違います。だから、「吹くこと」と「練習すること」は違うのです。しかし、これを切り分けて考え、実践することはそう簡単なことではないのです。
そして、楽器の上達だけが、レッスンで起きることではないとも思っています。
yukita(ユキータ)フルート&ピッコロ音楽教室では、入会前に無料体験レッスンを実施しています(お一人様1回限り)。まずはお気軽にご相談ください。
上手くならない、吹いているのに上達しない、から脱却した先にある「楽しい」に、共に歩いていければと思います。
補足情報
著者情報
吹奏楽部では、「先輩から教わって、あとは自分で」という環境になりやすいと感じます。ポテンシャルがあっても、練習の仕方が分からないまま続けると、知らないうちに癖がついてしまう。当教室では、これで悩んでお越しいただく方は少なくありません。
そして学生時代に同じ経験をされた大人の方からも、多くご相談をいただいています。
楽器の上達はもちろん、お子さんの「本気」に向き合える場所でありたいと思っています。自己規律を持って継続した経験は、その後の自信や成功体験に必ずつながります。お子さんのフルートのこと、まずは一度お聞かせください。
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