気づかなかっただけで、すぐそばにあった

講師紹介
今回は、中学時代に吹奏楽部でフルートを担当し、20年以上のブランクを経て再開されたIさんの成長記録をお届けします。
レッスン中に何度も「あの頃の自分に教えてあげたかった」と仰っていた、そんな生徒さんのひとりです。
個人情報に配慮し、一部詳細をぼかして書かせていただきました。
1. 「また吹きたい」は、ずっと心の奥にあった

Iさんが体験レッスンのお問い合わせをくださったのは、お子さんが小学校に入ってしばらく経った頃のことでした。「実は、ずっと気になっていたんです。でも今更かな、と思ってなかなか踏み出せなくて。」そのひとことに、彼女の20年分が詰まっているように感じました。
中学3年間、吹奏楽部でフルートを吹き続けたIさん。高校進学と同時に部活をやめ、そのままフルートは実家の押し入れへ。「いつかまた吹こう」「また時間が出来た時に」と思いながら、気づけば20年。
ライフステージの変化に応じて結婚、出産、育児などをこなす中で、自分のことは後回しにしていたというより、「後回しにすることが当たり前」になっていた、と仰っていました。「お金も時間も、自分だけに使っていいのかな」という感覚も、正直あったそうです。その言葉を聞いて、私は「そう思っている方は、本当に多い」と感じました。
でも、「また吹きたい」という気持ちは消えていなかった。それだけで十分なのではないでしょうか。
2. 子どもの発表会で、胸がぎゅっとした

壇上で一生懸命演奏する我が子の姿を見て、なぜか胸がぎゅっとした。嬉しかったのか、懐かしかったのか、自分でもよくわからなかったそうです。でも帰り道、ふとこんなことを思ったそうです。
「子供があんなふうに夢中になっている姿を見て、何かスイッチが入った感じがしました。私も中学の頃、あんな風だったなって。あの頃みたいに、また何かに本気になりたいって思ったんです。」お子さんの成長と一生懸命な姿が、Iさんの中に眠っていた当時の記憶や思いを引き出したのでしょう。
その感情が、問い合わせフォームからのお問い合わせに繋がったそうです。「どうせ忘れているだろうし、指も動かないだろうし」と思いながらも、その日のうちに送信ボタンを押してくれたそうです。この一歩が、すべての始まりでした。
3. 実家の押し入れから出てきたフルート

体験レッスンの日程が決まると、Iさんは実家に電話をされたそうです。
「フルート、まだある?」「あるよ、押し入れの奥に。」お母様の即答に、少し笑ってしまったと仰っていました。
週末に実家へ帰り、押し入れを開けると、ケースが出てきた。当時使っていた教本も、クロスも一緒に。「錆びてたらどうしよう、って緊張しながら開けたんです。」と微笑んでいた笑顔がとても印象的でした。
キーを動かしてみると、ちゃんと動いた。恐る恐る唇を当てて息を吹き込むと、音が出た。「あ、まだ吹ける」と思った瞬間、目頭が少し熱くなったそうです。
20年間、押し入れの中でIさんを待っていてくれた楽器。その話を後のレッスン後に聞いて、私も温かい気持ちになりました。
4. 「中学の時は、誰も教えてくれなかった」——数ヶ月で見えてきたこと

体験レッスンで実際に吹いていただいて、すぐにわかったことがありました。音そのものは、きちんと鳴る。息を流す、循環させる感覚も、覚えてくださっているようでした。
しかし身体の使い方に、長年の「癖」がついていた。息の方向、姿勢、指の力の入れ方など、中学時代に覚えたまま、そのまま20年が経っていたのです。
吹奏楽部では多くの場合、先輩から「こうやって吹くんだよ」と教わり、あとは自分で、ということが少なくありません。そして、身体の仕組みや、なぜそうするのかという理由、正しい奏法や基礎を教わる機会は中々ありません。
「音が出る」と「正しく吹けている」は、違う現象です。「音が出る」でいいなら、それでいいのですが、「正しく吹けている」と、その先にあるものを求めるなら、話は変わってきます。この違いを知らないまま何年も続けると、気づいた時には負担の大きい吹き方が定着しきっています。
幼い頃から青年期に身体に刻んだことを、人間の脳は手放しません。もしあなたが忘れていると思っていても、それは奥の引き出しに仕舞っているだけ。衣替えで冬用のコートを奥に仕舞っているのと同じことなのです。
だからこそ、その時期に「正しいこと」を覚えられたかどうかが、後々まで大きく影響するのです。Iさんの場合も、まさにそうでした。
「何故音が震えるのか、中学の時はずっとわからなかったんです。先生に聞いても『もっと練習して、震わせないで』って言われるだけで。」この謎が、数ヶ月のレッスンで初めて解けた。
「こういうことだったのか」と、Iさんの表情がみるみる変わっていく瞬間は、私にとっても忘れられないものになりました。はっと周囲に花が咲くような、きらきらした目と笑顔になる瞬間も増えました。
半年が経つ頃には、ご自身でも「吹き方が変わった気がする、音や吹き心地が全然違います。」と仰ってくださるようになりました。
5. 1年後——「自分のための時間」が、家族にも返ってきた

Iさんの場合、初回レッスンから1年ほどまで、まず優先的に取り組んだのは、身体とフルートの関係を整理することでした。息の通り道、重心の位置、無意識に入っている力などこれらをひとつひとつ確認しながら、「本当に必要なのか」「なぜそうするのか」を一緒に考える形で進めていきました。理学的なアプローチやマインドアプローチを同時に取り入れました。
これにより、身体のほうでは「力を抜く」ことと「支える」ことの違いを比較しながら定着させ、また、姿勢と呼吸の関係を実感してもらうことを優先しました。数ヶ月が経った頃、Iさんがこんなことを話してくださいました。
「家での練習が変わった気がするんです。何となく吹いて、最初からとりあえず通して吹いていたのが、確認しながら吹くようになって。」
目的を持って練習できるようになると、上達のスピードは驚くほど変わります。1時間を超える10分を生み出すことも可能になります。「上手くならない」の多くは、才能の問題ではなく、方法の問題だと個人的には考えていますが、Iさんはそれを、身をもって体感されていったように感じます。
そしてレッスンを始めて1年ほどが経った頃、Iさんがお話くださったことがとても印象的でした。
「夫に『最近なんか楽しそう』って言われたんです。」「子どもに『ママ、フルートやってるの?』って聞かれて。」照れながらも、どこか誇らしそうな表情でした。
自分のために時間とお金を使うことへの罪悪感があったIさんが、気づいたらそれをやめていた。ご家族やお子様のことを大事にしながらも、自分のことを大事にしてくださるようになったのです。「やっと自分を後回しにしなくてよくなった気がした」とも仰っていました。
楽器の上達だけが、レッスンで起きることではないと、私は常に感じています。何かに本気で向き合う時間が、その人自身の身体や精神、心持ちを少しずつ変えていくのではないでしょうか。Iさんを見ていて、改めてそう感じました。
最後に
「また吹きたい」と思いながら、何年も踏み出せないでいる方へ。
ブランクは、障壁ではありません。実家に楽器が眠っている方は、経験上本当に多くいらっしゃいます。私の実家でさえ、開けられずに眠っている楽器があります。
「もう吹けないんじゃないか」と思っていても、身体はちゃんと覚えています。ただ、中学や高校の頃に覚えたまま再開すると、知らないうちに癖を強化してしまうこともある。だからこそ、再開のタイミングこそ、正しい身体の使い方や基礎を一度丁寧に確認してほしいのです。
基礎はどんなに上達しても、どんな段階でも必ず使う、必要なものだから。
yukita(ユキータ)フルート&ピッコロ音楽教室では、入会前に無料体験レッスンを実施しています(お一人様1回限り)。
「久しぶりすぎて恥ずかしい」「ちゃんと音が出るかどうかもわからない」
そんな方こそ、ぜひ一度いらしてください。
何年も前に蓋をしてしまった「また吹きたい」を、一緒に形にしていきましょう。
補足情報
著者情報
「また吹きたい」と思いながら踏み出せないでいる方からのご相談は、当教室でもたくさんいただきます。そしてその殆どの方が「もっと早く来ればよかった」と仰ってくださいます。
個人的には、親も、親である前にひとりの人間であり、できる範囲で自分の人生を楽しむ姿は、お子様にきちんと届いていると感じます。
かつて私も「お父さんにも〈大事な楽しみ〉の時間があるのか」「お母さんも〈友達と、美味しいケーキや会話を楽しむ1人の女性〉なのか」と、親の予定を聞き、気付かされました。
当教室が「フレックスな教室」であろうとしているのも、そういう方の「一歩」を、ちゃんと受け取れる場所でありたいからなのです。
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