その日Nさんは、ずっと心の中にしまっていたものを取り出した

講師紹介
今回は、体験レッスンに来てくださった、楽器経験ゼロから始めたNさんの成長記録をお届けします。
楽器を習ったことも、触れたこともなかったNさんですが、今も楽しくフルートを続けてくださっています。
現在もお越しいただいているNさんに、一部詳細をぼかしたうえで記事へのご掲載許可をいただきました。
1. 「綺麗だな」と思い続けて、何年も経っていた

Nさんが体験レッスンに来てくださったのは、20代後半のことでした。音楽や楽器は、習ったり経験したりしたことが一度もない。楽譜は見たことはあるけれど、読めない。
ただ、音楽は好きで、よく動画で聴いたり、予定が合えばコンサートに足を運んだりされていたそうです。その度に、フルートを構えた奏者の姿に、ずっと憧れていた。フルートを始めようと思われたきっかけをお聞きすると、少し照れながらそう話してくださいました。
フルートは、奏者の身体に対して、ほぼ十字に交わるように構える楽器です。俯瞰して遠目から見たときに、管体が肩から胸のあたりで横に伸びる。ドレスを纏った奏者が、金属でできたフルートを演奏している姿は、優雅で清楚で、他の楽器にはない美しさがあります。
フルートが圧倒的に女性奏者の多い楽器である理由のひとつは、きっとここにもあるのでは、と個人的には感じています。
「いつかやってみたいと思いながら、もう何年も経ってしまっていました。でももう待てなくて、今日来ました!」
そう言ってにぱっと笑っていたNさんの笑顔を、今もよく覚えています。
2. 初めて音が出た瞬間、Nさんの目が輝いた

Nさんをはじめ、フルートを初めて吹かれる方の体験レッスンで最初に行うことは、「音を出してみる」ことです。楽器の扱い方や構え方、息の方向、アンブッシュアなど、順番に確認しながら、一緒に音を出しました。
フルートは、管楽器の中でも発音の構造がシンプルな楽器です。よって、音を出すこと自体は、実はすごく簡単なのです。ただ、綺麗な音色が出るまでには少し時間がかかることがあります。
息の角度、スピード、唇の力加減など、ほんの少しのことで大きな反応が出る事も多く、余計な力が入っていると、なかなか思い描いていた音色になりません。
Nさんも最初は、音は出るけれどもう少し、という状態でした。しかし、少しずつ調整を重ねて、ある瞬間、ふわっと音色が変わったのです。
「出たー!」
思わず声が出て、満面の笑顔になられました。楽器経験がゼロだからこそ、憧れていたからこそ、綺麗な音が出せた瞬間の純粋な感動があるのです。この、とても嬉しそうな満面の笑顔を拝見することは、体験レッスンで私が一番好きな瞬間のひとつです。
体験レッスンではもちろん、当教室の無料貸出楽器をお使いいただきました。
3. 入会から数ヶ月― 楽譜って、活字の本を読むのに似ている

入会してしばらく、Nさんはいくつかの壁にぶつかりました。まず楽譜。記号と音符が並んでいるだけであるため、最初は暗号か記号の羅列のように見えていたようです。
「黒丸のやつしか知らなかった!」「イタリア語だけじゃなく、自分の母国語で書く人もいるんですね!」「クレッシェンドも記号があるのに、わざわざ言葉で書くんですね!」
そんな言葉が飛び出すほど、楽譜の世界は発見の連続だったようです。知らなかったことが分かると、とても面白そうに、また、楽しそうにされていたのがとても印象的でした。
私は、読譜は活字の本を読むことに似ている、と生徒さんにお話しすることがあります。読み慣れないうちは文字を追うだけで精一杯で、ストーリーが頭に入ってこない。でも読み続けるうちに、文字がイメージに変わって、場面が動き始める。
楽譜も同じで、音符がそのまま音やリズムのイメージとして浮かぶようになるまで、ある程度の慣れは必要になります。漢字の意味を知るのと同じように、どの音符がどの長さ、などの構造も知る必要があるのです。Nさんは、こういった発見や、知ることを楽しみながら、丁寧に積み上げていかれました。
そしてもうひとつの壁が、息とお腹です。
フルートは、息が余るどころか足りなくなる楽器です。普段の呼吸のままでは、楽器を鳴らすには不十分なことがほとんど。きちんと吹いていると、ため息ひとつつく余裕もない。
演奏後の、〈ほっと一息、胸を撫で下ろす〉ため息も、一度息を吸い直さなければいけません。お腹と肺をフル稼働させながら息を送り続けて、指を動かしながら息とお腹を同時にコントロールする。この、見た目の優雅さと、中身の大変さのギャップに、Nさんも驚いておられました。
それでも月2回、仕事帰りに、時には休日の楽しみの一コマとして、Nさんはレッスンに通い続けてくださいました。入会後しばらくは当教室の貸出楽器を使っていただいていましたが、半年ほど経つ頃、ご自身のフルートをご購入されました。
4. 入会から半年― 「フルートは白鳥なんですよ」

レッスンの中で、Nさんにこんなことをお話したことがあります。
「フルートは白鳥なんですよ」
湖に浮かぶ白鳥は、優雅でのんびりして見える。晴れの日に目を閉じているときも、曇り空の湖に静かに浮かんでいるときも、それはそれは美しく、儚げで、優美です。私がスイスに留学していた当時は、そんな白鳥を見ながら、その横を通って通学することもありました。
しかし、水面下ではどうでしょう? 優美で美しい姿を見せる白鳥は、水面下では、ひたすら足を動かし、水をかき続けています。食事のときも、休んでいるように見えるときも、いつも水をかき続けていなくてはいけないのです。
フルートも、そういう楽器だと私は感じます。聴いてくださる人には見えないところで、お腹と肺をフル稼働させながら息を送り続けているのです。指を動かしながら、息とお腹を同時にコントロールしながら、それを顔に出さず、知らぬ存ぜぬで演奏しているのです。
Nさんはその話を聞いて、少し間を置いてからおっしゃいました。「なんか、すごく腑に落ちました。フルートを吹く人はあんなに綺麗に見えるのに、こんなに大変なの? 私だけ? と思っていたので…」そう、Nさんだけではなく、皆最初はそうなのです。
今思えば、Nさんにとっての〈大変さ〉の意味が変わった瞬間が、この時だったのかもしれません。自分だけではないことや、〈理由が分かった瞬間〉でもあったのでしょう。そしてその頃から、Nさんの音が少しずつ変わり始めました。
5. 1年後― 30代になった今も、Nさんはフルートを続けている

最近のレッスンで、Nさんがこんなことを仰っていました。「もっと早く始めればよかった! って、今になって思います。過去の私に、もっと早く先生の所に来てほしかった!」私には、今が充実している、充足感があるからこそ出てきた言葉のように聞こえました。
仕事とは切り離した、自分だけの時間。その中身である、当教室での月2回のレッスンと、普段の練習が、Nさんの生活の中にすっかり馴染んでいます。習慣になったものは強い、とよく言いますが、まさにそういうことなのだな、と、私も痛感しています。
そして、正しい基礎を学び、しっかりと演奏することを続けていると、身体の使い方そのものが変わってくることもあります。同時に、音はどんどん磨き上げられていくのです。
実際に、Nさんの音は、本当に綺麗になられています。昔フルートを吹かれていたというご友人に、Nさんが自分の録音を聞いていただいた所、「まだ1年しかやってないの?! 数年でこれなら分かるけど、どうやったら1年でこんな綺麗な音になるの?」と大変驚かれたそうです。
「暫く会えていなかった友達に、フルートを始めたんだーって自慢したら、びっくりされて、すごいすごい言われて、照れてしまいました。」と、1年前と変わらない、とても嬉しそうな満面の笑顔でお話くださいました。
「やってみたかっただけ」でいい。それは、十分な理由なのです。
最後に
「経験がないから無理かな」と思われている方へ。
楽器を触ったことがなくても、楽譜が読めなくても、それはスタートラインとして何も問題ありません。最初は皆、私も含めて、楽器を触ったこともなく、楽譜も読めないところからスタートしています。始めからできる人はいません。
音楽が好き、フルートの音色が好き、あの姿が綺麗だと思った… その気持ちだけで十分なのです。
最初から楽器を持っていなくても、問題ありません。体験レッスンは無料貸出楽器で始めて、続けたいと思ってから自分の一本を選べばいいのです。焦って楽器を買う必要は、どこにもありません。
お一人おひとりのペースと目標に合わせて、カリキュラムを一から組みます。そのため、「こういう方には対応できない」という枠が、当教室にはないのです。
yukita(ユキータ)フルート&ピッコロ音楽教室では入会前に、無料体験レッスンを実施しています(お一人様1回限り)。まずはお気軽にご相談ください。
補足情報
著者情報
音楽経験がゼロでも、楽譜が読めなくても、フルートは始められます。難しそうに見えて、実は入り口はとても素直で簡単な楽器です。そして、誰もが最初は初心者・全くできないところから始まります。
そして、続けるほどに奥が深くなる。お腹の使い方、息のコントロール、音色の変化など、上達していくにつれて、自分の身体への意識が変わっていきます。
Nさんのように、憧れだけを持って飛び込んでくださった方が、今もレッスンに来てくださっています。一講師として、その成長を一番近くで見られることが、何にも代えがたい喜びです。
まずは無料体験レッスンで一度フルートに触れてみてください。
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